「………おはよう」
 
抑揚のない声での挨拶。
眠いのか、緋色の瞳はとろんとしている。
ふと、その瞳が不思議そうに瞬きをした。
 
「どうか、した?」
 
おでこ、赤い…………
 
転んだ時にぶつけた額に手を伸ばされ、思わず後ずさってしまった。
 
「な、なんでもない!大丈夫大丈夫」
 
あはははは、と乾いた笑い声をシンは上げる。
行き場のなくなった手を引っ込めながら、ステラはきょとんとした。
 
「シン、なんか……変………」
「そ、そんなことないよっ」
 
変、と言われ多少ショックを受けながら、シンはぎくしゃくとした動きで席に着く。
 
ルナマリアの言った通り、シンの席はステラの隣だった。
ぼぅっとした様子で一人静かに座っていたステラを見とめた瞬間、そして振り向きながらのおはようの瞬間、シンの脈拍が速くなったのは言うまでもない。
 
「えーと………な、なんか俺たち縁があるよな!」
「………縁?」
「入寮するの一緒だったり、同じクラスだったり、隣の席だったり………色々」
 
そう言ってにへらと笑うシンをじっと見つめ、ステラはこくりと頷いた。
 
「うん………そうかもね」
「………うん」
 
ステラの同意がシンには無償に嬉しく感じられた。
なんとなく照れてしまい、ステラから視線を外し、机に向き直る。
 

そこで、担任教師と思われる者が教室に入ってきた。
 
「皆おはよう、そしてはじめまして。このクラスの担任、タリア・グラディスです。担当教科は数学」
 
一年間どうぞよろしく。
 
そう言って微笑む担任タリア・グラディスは美人で、とても優秀そうな女性であった。
付け加えておくと、怒ったら恐そうでもある。
 
タリアは名簿と生徒を見比べると、満足そうに笑った。
 
「全員出席。このクラスは気持ちよく始められそうで安心しました」
 
その言葉を聞き、シンは内心息をつく。
 
遅れなくて本当によかった…………
 
 
 
「さて、式までもう少し時間があるわね。でも一人一人の自己紹介は無理だし……とりあえず隣の席同士でしましょうか」
 
友好を深めるには隣人から。
 
タリアはにっこり笑ってそう言った。
 
 
 
最初は戸惑っていた生徒たちも、誰かが自己紹介し始めるとつられてしだした。
そしてあっという間に教室は明るい声に包まれる。
飛び交う会話を聞きながら、シンは小さく首を傾げた。
 
「……ステラ、どうしようか………」
「え………?」
「いや、俺たちもう自己紹介済みだし」
 
隣同士で。ということはシンはステラと、ステラはシンとだ。
だがお互い初めて会った時に簡単な自己紹介はしている。
 
シンはどうしたものかと頬を掻く。
すると、ステラはぽーっとした表情で何か考えていたかと思うと、ふいにシンに顔を向けた。
 
「じゃあ、もう一回、する………?」
「へ?」
「………自己紹介、するんでしょう?」
「え、あ、うん………」
「じゃあ、もう一回、すればいい……と思う」
 
ぽつりぽつりというステラに、シンはぽかんとし、
 
「………うん、そうだね」
 
とだけ頷いた。
ステラは椅子を動かし、シンに体ごと向く。
 
「わたし、ステラ・ルーシェ………よろしく」
 
そう言って手を差し出す姿が、あの桜の並木道でのことと重なった。
シン自身もあの時と同じように、顔を真っ赤にしつつ、ステラの手を取る。
そして緩む頬を引き締め、晴れやかに笑った。
 
「俺はシン・アスカ。よろしく、ステラ」
 
 
 
二度目の自己紹介も、悪くはないとシンは思った。
 
 
 
END
 

‐あとがき‐
 
やっとこさ、学校来ました。
とてもお約束な展開が恥ずかしいけど、楽しい。(ぇ)
 
やっぱ同じクラスに隣の席!
これって少女漫画の王道でしょ!?(これは少女漫画にあらず)
 
ルナマリア初登場。
シンとは中学時代からの友達で地元も一緒という設定。
レイルナもやりたいですね!
だけどシンステ進展させなきゃですので、ちょこちょこ兆しを出す程度でしょう、じばらくわ。
 
さてさて。次は入学式です♪
種キャラ出ますよ〜v(多分)
 
UP:05.01.22
 
 
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