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プロローグ
「綺麗だなー………」
そう呟き、少年は感嘆の息をもらす。
そのままあちらこちらへと首を巡らせ、また息をつく。
視界を染めるのは鮮やかな薄紅色。
春の訪れを告げる、桜の木々。
それで成り立つ並木道は、通るだけで心が踊る。
鮮やかに咲き乱れる花は美しく、どこか幻想的だ。
そよそよと穏やかに流れる風に頬をくすぐられると、思わず口元が綻ぶ。
少年は上機嫌に、にっこり笑った。
「いい所に来たな、俺」
新天地を早くも気に入った様子の少年は、肩にかけたボストンバックを担ぎ直した。
「さて、そろそろ行かなきゃな」
本当は立ち止まって、もう少し桜に酔っていたいが、そうもいかない。
「早く入寮しなきゃいけないし」
そう、今日は入寮日なのだ。
少年はこの春からこの地の高校への入学が決まっていた。
その高校は全国的にも有名なので、地方から来る生徒の為の寮がある。
そして少年もそんな地方の生徒の一人で、今日から入寮することになっているのだった。
少年はズボンのポケットに手を突っ込み、四つ折りにしたプリントを取り出した。
入寮案内所に同封されていたものだ。
カサカサと音をさせそれを開く。
それには寮までの地図が書かれていた。
「えーと……このまま並木道を真っ直ぐ行って、それから………」
空いている方の指で地図をなぞりながら、少年はぶつぶつと道を確認していく。
すると。
突然、強い風が少年に向かって吹いた。
そのまま少年の手からプリントがさらわれる。
「やばっ………!」
プリント、というか地図がなかったら困る………!
少年は慌ててプリントを追った。
しかし、風に吹かれて飛ぶプリントは中々つかまらず、少年はボストンバックを揺らしながら必死に走る。
「待て―――!」
待て待て待て待て!
少年は叫びながら走った。
それを嘲笑うかのごとく、プリントは高く、空を舞った。
そしてそのまま、桜の木に引っかかってしまう。
その木の下まで来た少年は、枝に引っかかったプリントを見上げた。
「うわ、もぅ………最悪」
あーあ、とため息をつき、少年はボストンバックを地面に下ろした。
手をかざし、枝までの距離を目測する。
「………よしっ」
この高さなら余裕だ、と少年はふんだ。
運動神経は人並み以上だと自負しているし、身軽な方だとも思う。
少年はぺろっと唇を舐めた。
そして少しだけ後ろに引いて、駆け出そうとした、
その瞬間。
少年の隣を、過ぎ去る風があった。
「―――え?」
少年は足を止め、目をみはる。
その紅い瞳にうつるのは、風の正体。
言葉を失う少年の前で、それは軽やかな動きで枝に引っかかったプリントを取った。
そしてすとん、と地に足をつくと、そのまま少年へ振り返る。
今手にしたばかりのプリントを差し出しながら
「……はい、これ」
抑揚のない声と無表情とも言える顔を、少年に向けた。
少年は呆気に取られ、プリントと少女を何度も何度も見比べる。
呆然とする少年に、少女はきょとんと目を瞬いた。
「これ……あなたのじゃないの………?」
少女がそう言って小首を傾げると、少年ははっと我に返り、慌ててプリントを受け取った。
「あ、あ、ありがとう………」
何とか笑顔をつくり、少年は礼を言った。
その心中は、驚きと戸惑いで混乱しきっている。
突然現れ、突然舞い上がった少女。
一瞬、本当に風かと思った。
しかし、その姿はやはり少女で。
しかも、見たこともない程、可憐な少女で。
金の髪に、緋色の瞳。
軽やかに宙を舞う姿は、天使に見まごう程で。
色々な意味で、少年の鼓動の早さが増していた。
えーと、えーと。
何か、何か言わなきゃ………!!
ぐるぐると、思考をめぐらせ言葉を探すが、見つからない。
すると、ふいに少女が口を開いた。
「そのプリント………」
「………えっ?」
少年は手に持つプリントを見遣った。
「このプリントが、どうかした……?」
「うん………」
曖昧な感じで少女は頷き、スカートのポケットから一枚の紙を取り出した。
それを目に留め、少年はあっと声を上げる。
「同じプリント………!?」
ということは…………
少年は無意識に表情を輝かせた。
「君も、種定高校の寮生!?」
少年が声を弾ませそう聞くと、少女はこくりと頷く。
「………うん、今年からなの………」
「お、俺も!俺も一年生!」
あまりの偶然に、少年は心が踊るのを感じた。
なぜか興奮しだす少年に、少女は不思議そうに目をしばたかせる。
そのまましばらく黙り込むと、ふいに右手を少年に差し出した。
「わたし………ステラ」
「ス、テラ………?」
「うん……ステラ・ルーシェ」
よろしく………
ぽつりと、呟くように言って、少女は、ステラは淡く微笑んだ。
その微笑みに少年は真っ赤になりつつ、少女の手を遠慮がちに取る。
そして、満面の笑みを浮かべた。
「俺は……シン、シン・アスカ!」
よろしく!
新しい場所で、何かが始まる。
そんな予感が、シンにはあった―――――――
END
‐あとがき‐
始めちゃいました、現代パラレル。
とりあえずプロローグです。
序章です。
序章と言えば、出逢いです!!(ぇ)
えーと。
最初に申し上げておきます。
現代パラレルは本編と番外編にわけて書いていく予定です。(予定ですョ)
本編はまぁ、連載系のつながった話?です。
一組のカップルの初々しい学校内(寮内)恋愛もの、の予定。(予定ですョ)←しつこい
まぁ、そのカップルというのはこのプロローグからもわかって頂けますように、シンステです。
彼らを中心に書いていこうと思いマス。
ですが。
皆さんご存知の通り(?)私こと四葉ゆうはキララク至上主義者!
そして他のノマCPも大好き!
という奴ですので、もちろんシンステ以外も書いていきます。
それが番外編となります。(本編に加わることもあります)
だけど、不定期更新なんで。(爆)
根気よく付き合ってくだされば幸いです。
UP:05.01.10